難病法Q&A

難病法、改正児童福祉法 成立!

聞き手[Q]:永森志織
回 答[A]:伊藤たてお

2014年5月23日、第186国会で下記の2つの法律が成立しました。

  • 難病法(難病の患者に対する医療等に関する法律)
  • 改正児童福祉法(児童福祉法の一部を改正する法律)

その経緯を教えてください。

日本の難病対策は1972(昭和47)年に施行された「難病対策要綱」に始まります。

当時風土病とか難病・奇病と言われたSMON 病が国を挙げての研究班を作ったところ、短時日で原因がキノホルムという整腸剤にあったことが証明されたことから、ほかの多くの難病も全国の研究者・臨床医を網羅する研究班を作って原因の究明と治療法の開発をめざそうということになりました。その際に多くの患者を集めると同時に生活に困窮をきたし治療費にも困っている患者を救うために「研究協力謝金」という性格での医療費助成を国と都道府県が二分の一ずつ負担するという約束で行うこととなりました。

その後この事業は次第に拡大され、患者も多く発見されるようになっていきますが、それに伴って患者数が多くなり医療費の支出が多くなっていきました。この事業は国の予算の裁量の範囲内で行う事業のため、財政状況が厳しくなるにしたがって国の支出の割合が少なくなり、都道府県の負担が大きくなってしまいました。一方で対象となる難病は非常に多くあることも明らかとなってきて、すでに難病対策の対象となっている疾患とそうでない疾患とでは不公平があることや研究対象となる疾患の選び方も不透明だという声が大きくなってきました。

患者の側でも同じ病気の患者家族で団体を作る動きが高まり、1972 年に「全国難病団体連絡協議会(全難連)」が結成され難病対策の成立に大きな役割を果たしました。また全国の都道府県に地域の「難病連」が続々誕生し、また疾患単位の患者・家族団体が次々と誕生しました。自治体でも保健所を基盤に地域の難病患者支援が進められ、市町村でも独自の施策や患者・家族への支援が進められるようになっていきました。

そのような社会的な影響の中で、難病対策の拡充と患者・家族の生活を支えるための数々の共同行動が進められ1986(昭和61)年に地域難病連と「全国患者団体連絡協議会(全患連)」が合併して「日本患者・家族団体協議会(JPC)」が結成され、そのJPC と全難連が合併して2005(平成17)年に現在の「日本難病・疾病団体協議会(JPA)」が結成されました。

JPA はJPC に引き続いて難病患者だけではなく、小児慢性疾患と長期慢性疾患対策の拡充と生活を守るために国会請願や様々な行動を積み重ね、その中で難病を一つずつ対象に入れていく難病対策は限界であることや、難病患者も生活者としてこの社会で生きていくための様々な施策や就労と社会参加が必要であり、研究と医療費助成だけではなく障害者と同じ福祉サービスも含めた「総合的な」難病対策の必要があることを強く訴えました。

このことが糸口となって難病対策の在り方を検討するために2001(平成13)年に「厚生科学審議会疾病対策部会」に「難病対策委員会」が設置されました。この審議会には患者会は正式メンバーとしては参加できませんでした。

休眠状態が続いていたこの委員会は2009(平成21)年2月の第8回委員会から再開され、初めて2 名の患者代表が正式に委員として参加し、2011(平成23)年9月の第13回委員会から難病対策の改革をめざして精力的に開催されました。難病や福祉の研究者、行政、医療関係団体、難病患者団体が様々な側面から意見を交換し、その討論の中から2011 年に中間整理が行われ、「今後の難病対策の検討に当たって」という見解がまとめられたことで、患者団体も共に「難病の法律を作ること」の方向を確立することができました。それは2013(平成25)年の難病対策委員会の報告書にまとめられ、疾病部会で厚生科学審議会から正式に厚生労働大臣へ提出されたことから、難病対策を法律化することが閣議決定され、国会に提出される運びとなったものです。

この法律の主な内容を教えてください。

患者さんに特に関わることだけでも以下のようになります。

  • 今までの「特定疾患」は56 疾患から当面およそ300 疾患に拡大され「指定難病」とされます。その指定難病のうち重症度基準の対象となる患者が医療費公費負担の対象となります。
  • 障害者福祉サービスは軽症患者も対象となりますが支援程度区分の認定を受けなければなりません。
  • 今までの特定疾患の受給者は3 年間の経過措置で、今までと同じ認定基準で今までと同じ自己負担とされます。
  • 自己負担の額は医療保険の世帯単位で市町村民税の額によって上限が設けられます。
  • 入院給食費は全面的自己負担となりました(経過措置は1/ 2負担)
  • 世帯内に複数の指定難病患者や小慢の患者がいる場合は人数による按分とされます。
  • 複数の医療機関や調剤薬局の利用も負担上限の枠内に入ります。
  • 小慢の患者の負担上限額は指定難病の2 分の1 となります。
  • 自己負担上限管理票を保険証や受給者証と一緒に医療機関等に提出しなければなりません。
  • 新規申請の患者は専門医療の指定医の診断が必要になります。
  • 日常の医療や継続申請でも主治医に指定医になっていただかなければなりませんが、必ずしも専門医ではなくても一定の(短い)研修(地域の医師会が開催する)を受けてもらえば指定医になることができます。

法案が審議される前の難病対策委員会ではどのようなことが議論されましたか。

難病の定義や範囲、対象疾患の数をどうするか、法律化すべきかどうかについても、議論されました。

財源や福祉サービス、自己負担の在り方や金額、医療の体制、専門医制度と主治医や専門医の少ない疾患、診断基準やそれに準ずるものという意味や、医師の過剰負担に対するインセンティブや難病相談支援センター、自治体の役割、難病対策推進の体制、軽症患者へのサービスと登録制、小児慢性特定疾患からのトランジション問題や他の制度とのバランスなどあらゆる面にわたって厳しい議論が行われました。

難病の定義については、国際的な研究の体制に合わせるということで「希少性」ということが明記されましたが、その希少性とは患者数が概ね人口の「0.1%程度以下」ということになりました。実際の運用では当面は0.15%が目途となります。この数字は今後も見直されるでしょうが、患者数が多いことが「難病ではない」ということにはならない、ということも確認されています。

対象疾患はおよそ300疾患を目途とすることになりましたが、これが限界ということではなく、また疾患群という整理の仕方もあるということで落ち着きました。

財源については、消費税の増税を社会保障財源とする三党合意もあって、新しい難病法の財源としては多くの議論を呼びましたが、できるだけ患者負担の増額を抑えるとともに、この消費税を財源とする事で国の財政的な義務を伴う新しい法律として成立することになりました。

またこの難病法の成立に先立って、2013(平成25)年4月から、障害者総合支援法の対象に「難病」も入ることとなり、自治体や民間交通機関などによるサービスを除いて、国の障害者福祉サービスも受けることができるようになりました。障害者福祉サービスについては全国の市町村がその窓口であり実施主体なので、今までのように都道府県だけではなく、すべての地方公共団体も難病対策の担い手となったことを意味します。

この法律の特徴を教えてください。

この法律の趣旨は次のようになります。

「持続可能な社会保障制度の確立を図るための改革の推進に関する法律に基づく措置として、難病の患者に対する医療費助成(注) に関して、法定化によりその費用に消費税の収入を充てることができるようにするなど、公平かつ安定的な制度を確立するほか、基本方針の策定、調査及び研究の推進、療養生活環境整備事業の実施等の措置を講ずる。」

(注)現在は法律に基づかない予算事業(特定疾患治療研究事業)として実施している。

この法律は厚生労働大臣が「基本方針」を策定して理念を明らかにすることになりました。基本方針以外には次の3 項目を柱として対策を講じることになりました。

  1. 難病に係る新たな公平かつ安定的な医療費助成の制度の確立
  2. 難病の医療に関する調査及び研究の推進
  3. 療養生活環境整備事業の推進

施行日は2015(平成27)年1月1日となり、同年の8月頃を目途とした2段階での実施となります。

法案成立のために患者会の意見をまとめるのに苦労した点、工夫した点は何ですか。

患者会がある疾患とない疾患、患者数の多い疾患と極めて少ない疾患、専門医の多い疾患や、身近な医療機関でも受診可能な疾患、専門医もいない疾患などと様々な違いがあって、すべての患者団体の思惑や利害関係が必ずしも一致しないことです。また、患者の期待にもかかわらず患者数や診断基準の問題などでこの対策に入ることのできない疾患もあって、まったく同じ意見として取りまとめることは不可能でした。

最後には、この事業が研究や医療が重点の施策なのか、医療費助成や福祉サービスも行う事業とするのか、患者団体はそのどちらを選択するのか、という点での患者会の意見集約でした。

国会に超党派の難病対策推進議員連盟を作っていただいたことの意義は大きかったと思います。それまでの患者団体の国会請願も大きな役割を果たしたと思います。また厚労省と頻繁に意見交換をし、患者団体への説明の機会もたくさん開いて意見交換を続けました。

衆議院で2 法案に7 項目の付帯決議、参議院では難病法に10項目、改正児童福祉法に7項目の付帯決議がつきました。どのような内容でしょうか。

この法律は5 年以内を目途に見直しをすることになります。また今回の法律で不十分な点や多くの患者たちが求めていたことでこの法律に盛り込めなかったことなどについて、見直しをするよう求める付帯決議として、この法律が全会派一致で採択されたことを表しています。

難病対策を法律化することについて、その他の方法なども考えましたか。

考えましたが、結局は今回を逃せば法制化するチャンスがなくなるのではないかと思い、思いきって法制化に向けて動くことにしました。

今後、地域の患者会が取り組まなければいけないことはなんでしょうか。

この法律の実施主体が都道府県となることや、地方公共団体にも実施責任が生じることから、地域での患者会の活動が大きな役割を持つことになります。難病対策の地域推進協議会が保健所単位で作られ、その中には当事者として患者の参加を求めることなどや、医療の地域格差の解消や、福祉サービスの周知など患者団体として取り組まなければならない課題があります。

また自治体によっては「法律ができたので独自の難病対策は不要になった」と思っている自治体も現れていることから、地域の医療と福祉の充実などを課題とした行政や議会への患者団体の働きかけはとても重要になったと考えなければなりません。

世界でも珍しい、難病関連法だと思いますが、他の国の参考になる点はどういうところだと思いますか。

治療研究や医療だけではなく、医療費の助成や福祉サービスの提供、自治体の責任などの総合的な対策であることや、行政や研究者だけでなく患者団体の当事者も加わって作られた法律であり、これからの実施においても患者団体の参加の機会が保障されている点などですが、とりわけアジアの国々や発展途上にある国の患者さんたちには参考になることと思います。

指定難病の選定が始まっていますが、そのスケジュールと動向を教えてください。

2014(平成26)年10 月から12 月にかけて法律の施行内容と指定難病対象疾患が決められ、同時に障害者総合支援法の対象難病も決まります。2015(平成27)年の夏までには指定難病の2 次分が発表されます。

今まですでに特定疾患の受給者と認定されている患者も、12 月までに新たな手続きが必要です。

(出典:特定非営利活動法人難病支援ネット北海道機関誌「ななかまど通信第11号 p2-p4(2014年9月発行)」より転載)

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