審査委員よる総評
一般社団法人日本難病・疾病団体協議会(JPA)代表 伊藤たてお
難病患者サポート事業、患者の手記「今伝えたいこと」の2年目に寄せられた皆様の原稿はそう多いものではありませんでした。
しかしそこに描かれていたのは、震災から月日が経つにつれて深まっていく患者たちの心の傷と、少しでも前向きになろうと希望を見出そうとする心の葛藤ではなかったでしょうか。
患者さんたちが何の気兼ねもなく、ありのままを書けるのはやはり、同じ病気の患者会なのでしょう。そういう意味では本冊子に寄せられた手記や作品は、多少発表を意識したものにならざるを得ない部分があったと思います。
そのような中で、あえて寄せていただいた皆さんの勇気と、明日に向かっていく姿が、くっきりと浮かび上がるものばかりでした。改めて皆さんのご努力に敬意を表します。今は苦しくとも、必ずもっといい日がやってくる、と心から願っています。
埼玉県立大学 保健医療福祉学部 社会福祉学科 教授 高畑隆
東日本大震災からすでに2年が経過しようとしています。しかし、投稿からは当事者にとってこの災害は町もなくなり、人間まで失い、自分の過去も失うような、戻れないほどの未曾応の状況です。従って、こころの中では、時間が止まっている状態とも言えます。人によっては亡くなっている人たちからこころが離れない、生死が分かれた体験、何か起こったのかさえ分からない等、様々な実感がよみがえってくると思います。記録化は辛い時間と作業です。この体験を次の対策へ繋げるには、本人やご家族、周囲の方々が少し客観化して、言葉として言える時間、何らかの方法が必要かもしれません。誰かが耳を傾けたり、自分から発信し続ける力と支援が大切でしょう。災害をうけても、それでも生きていく。この体験を前向きに捉え、生き抜くには、多くの人の沢山の知恵と努力が必要です。日常の地域の協力、人のつながりを踏まえ、様々な状況を言葉に描ければ幸いです。これからの避難所は、誰もが過ごしやすいユニバーサル化した避難所も必要でしょう。災害を伝える語り部を育てる。あるいは、広島や長崎のように原子力記念病院を創設し、長期的支援を住民参加でオープンに行う。それらを中核に新たな都市づくり、産業モデルづくりもあるでしょう。日本から今後の世界へ向けて、新たな価値、評価を今回の災害の教訓から記録できると幸いです。
ノンフィクションライター 向井 承子
応募された手記に胸がつまった。多くの方が、前回の募集テーマ「あの日の記憶」そのままに、まるで時間か停まったかのように「あの日」の体験を綴ってこられた。「あの日」は、平時には見えず、見ないでも済ませてこられた人と社会、文化、制度、政治が内包するもろもろの本質的な欠陥を露わにむき出した日でもある。それが一年余を経ても解決されず、最も弱い人たちの上に覆い被さっている事実を伝えていただいた感がある。大災害時でさえ、被害はだれにも平等ではない。医療システムの分断、機能不全は病を重症化させ、弱いものからいのちを奪い、病む者、障害を抱える者ほど居場所を得にくい。人と社会はどこまでその構成員を救い支えあえるのか。社会の成熟度の指標ともいえる答えは、最弱者の光景にこそ見いだせるのだろう。今回の手記には、これまでの歴史では語られることのなかった多くのヒントが託されている。きめ細かい救済の方法を、政治、行政、専門家たちに編み出していただきたいと願う。
認定NPO去人 難病のこども支援全国ネットワーク 理事・事業部長 福島慎吾
未曾有の大震災と原発事故の起こったあの日から、すでに2年あまりの月日が流れようとしていますが、被災地の復興は、いまだ遅々として進んでいない現状が連日のように報道されています。
今回の応募作品を拝見して、被災地の人々の心の中において、時間はあのときのまま、止まってしまっていることをあらためて痛感させられました。作品の中で語られる「私の人生なんだったのか」、「生かされた私は今もまだ辛く、苦しい」などのコトバが胸に鋭く突き刺さります。
震災に対する記憶を風化させないためにも、また震災の直接的な被害を受けていない地域に住んでいる人々に対して、患者やその家族の“体験”、にもとづく「こえ」を届けるためにも、「伝えたいこと」を発信しつづけることが、いま求められていると思います。
末筆ながら、今回の作品をご応募いただいた皆さま、会報等の記事転載をご許可いただいた皆さまと患者会・家族会・親の会に、この場をお借りして心より御礼を申し上げます。ありがとうございました。
ファイザー株式会社 コミュニティー・リレーション課 喜島智香子
あの東日本大震災から2年が経ちました。この2年間で、日々の生活が激変した方もいる中で、時が止まったままの方も相当いらっしゃると思います。何一つ改善されることもなく、先が見えない不安な日々を送っていらっしゃる方々の事を思うと本当に心が痛みます。
今回、応募いただいた件数は大変少なかったのですが、それはもしかしたら「書く」ことができない状態にある方が多かったのではないかとも感じます。そのため、手記や詩の他に、3.11以降に発行された各患者会の会報に掲載されていたものから、いくつか選定し、転載させていただきました。同じ病気の方には伝えられる、伝えたいと思うみなさんが、本当に素直に胸の内を綴っています。会報を読むと、難病の患者さんが患者会の活動によって気持ちが支えられているということを実感します。詳細に記載された日々の生活の記録はこれからも大切に残していかなればいけないと思います。
まだまだ大変な日々を過ごされている方々が、今回も寄稿いただきまして、心から御礼申し上げます。
おわりに 事務局
東日本大震災から2年あまりが過ぎた被災地で目にしたのは、そこにあるはずの家々街並みは消え、そこにあるはずのない車などが今も畑の真ん中にある風景でした。傷一つない家が立ち並んでいるのに、人影はなく、まるで時間や空気がとまっているかのような地域。目に見えない放射線という脅威に阻まれ、我が家に住むことも、いつ帰れるかもわからない現実はとても残酷でした。そして、未だ復興の進まぬ被災地では、多くの方々が先の見えない不安を抱え、ストレスによる病気の再発や重症化、鬱、DV、離婚など、新たな問題に直面しています。
今回、皆様からお寄せ頂いた手記などと被災地訪問で、テレビや新聞だけではわからない“現実”があることを改めて思い知らされました。
この未曾有の震災がもたらした“現実”が忘れ去られてしまわないためにも、自分の言葉でありのままを綴る継続的な記録化は、とても重要な意味を持っていると思います。そして、このような記録が今後のさまざまな対策の検討の一助になれば幸いです。
審査委員
伊藤 たてお | 一般社団法人日本難病・疾病団体協議会(JPA)代表 |
高畑 隆 | 埼玉県立大学保健医療福祉学部社会福祉学科 |
向井 承子 | ノンフィクションライター |
福島 慎吾 | 認定NPO法人難病のこども支援全国ネットワーク |
喜島 智香子 | ファイザー株式会社コミュニティー・リレーション課 |
編集・構成
- 一般社団法人日本難病・疾病団体協議会(JPA)
- 株式会社北海道二十一世紀総合研究所
各患者会等の機関誌に掲載されている体験談・活動報告の一例
発行機関 機関紙名 巻数など |
タイトル(頁) |
---|---|
社団法人日本筋ジストロフィー協会・社会福祉法人全国心身障害児福祉財団 ZSZ 療育 2012.3 発行 |
御礼と近況報告(1〜5) |
東日本大震災のこと(6〜15) | |
平成三陸大津波(16〜25) | |
大震災報告(26〜28) | |
会員患者の被災体験 東日本大震災 罹災体験報告(29〜38) | |
会員患者の被災体験 東日本大震災 罹災状況・経過の検証と考察(39〜48) | |
会員患者の被災体験 東日本大震災 西多賀病院では(49〜53) | |
まとめと今後の課題(54〜57) | |
全国筋無力症友の会 『舫』 №23 |
被災地 宮城から災害を体験して感じたこと(3〜4) |
全国筋無力症友の会、全国の皆様へ(4〜5) | |
地震発生とその後(5〜7) | |
大災害を受けた仲間へのお見舞いと応援に替えて(7) | |
全国筋無力症友の会 北海道支部 『舫』 №25 |
交流会に参加して 全国筋無力症友の会東北・北海道ブロック交流会特集(22〜23) |
全国膠原病友の会 『膠原』 №163 |
被災支部からのお葉書(岩手・宮城・福島・茨城)(24〜29) |
全国膠原病友の会 『膠原』 №164 |
<巻頭特集>2011年を振り返って 新年のあいさつ(3〜4) |
<巻頭特集>2011年を振り返って「東日本大震災を体験して」(6〜7) | |
全国膠原病友の会 『膠原』 №166 |
「東日本大震災・被災地からの声」震災から一年を振り返って(24〜29) |
日本ALS協会 JALSA №87 |
被災地からの報告③岩手県 思いはひとつ!自分らしく生きることの実現のための活動(41) |
南相馬市におけるALS患者の現状(42) | |
JPDA (JAPAN PARKINSON DISEASE ASSOCIATION) SSKA全国パーキンソン病友の会 会報 №125 |
北から南から(富山発)オムツ支援…南三陸へ行く(34〜36) |
あの恐怖の日から…(42〜46) | |
読者の広場(52〜53) | |
JPDA (JAPAN PARKINSON DISEASE ASSOCIATION) SSKA全国パーキンソン病友の会 会報 №128 |
フクシマに春は訪れるのか(46〜47) |
NPO法人秋田県難病団体連絡協議会 TSK秋田なんれん会報 第48号 H24.3.20発行 |
支部長会議と震災!(4) |
東日本大震災とその後(4〜5) | |
北海道東北ブロック交流会in宮城に参加して(11) | |
岩手県難病団体連絡協議会 いわてなんれん 第12号 TSK通巻753号 |
被災から1年 再生の灯をかかげて(4〜5) |
震災特集 私たちは忘れない!くじけない!たちあがる!(37〜40) | |
岩手県難病団体連絡協議会 いわてなんれん №69 TSK通巻571号 |
3.11を忘れない あたたかいご支援を(65〜67) |
岩手県難病・疾病団体連絡協議会 公立大学法人岩手県立大学看護学部 難病患者等の震災後の日常生活状況と社会福祉ニーズに関するアンケート調査報告書 平成24年4月 |
難病患者等の震災後の日常生活状況と社会福祉ニーズに関するアンケート調査 報告書(1〜49) |
福島県難病団体連絡協議会 福島県なんれん 第2号 H24.3.15発行 |
東日本大震災に関して 「西潭難病研究班災害対策ワークショップ」東日本大震災と難病〜今何をすべきか〜(67) |
3.11とALS患者(68) | |
がんばろう!(68〜69) | |
震災の思い出(69) | |
宮城県難病相談支援センター ニュースレター宮城県難病 相談支援センター通信 №17 |
激震・大津波、宮城県を襲う!(1) |
被災地からの声(2) | |
NPO法人愛知県難病団体連合会 ANG愛難連 第64号 H24.3.20発行 |
加盟団体の要求事項と回答について(3) |
NPO法人難病ネットワークとやま 『難病ネットワークとやま』 №16 |
東北大震災 オムツ支援 南三陸へ行く(3〜9) |
「難病・慢性疾患全国フォーラム2012」参加団体
患者・家族団体(82団体)
- IBDネットワーク(潰瘍性大腸炎、クローン病)
- アレキサンダー病親の会(白質ジストロフィー)
- (NPO)アレルギー児を支える全国ネット「アラジーポット」
- ウェルナー症候群患者家族の会(遺伝性早期老化症)
- (NPO)ALDの未来を考える会/A-Future(副腎白質ジストロフィー)
- SSPE青空の会(亜急性硬化性全脳炎(SSPE)の子どもをもつ親の会)
- SJS患者会(スティーブンス・ジョンソン症候群=皮膚粘膜眼症候群、重症型多形渉出性紅斑)
- PADM遠位型ミオパチー患者会
- おれんじの会(特発性大腿骨頭壊死症)
- 下垂体患者の会
- NPO法人がん患者団体支援機構
- 公益財団法人がんの子どもを守る会
- 眼瞼・顔面けいれんの患者を元気にする会
- キャッスルマン病患者会
- CAPS患者一家族の会(クリオピリン関連周期性発熱症候群)
- 稀少がん患者全国連絡会
- 稀少難病愛知・きずなの会
- 血管腫・血管奇形の患者会
- 再発性多発軟骨炎患者会
- サルコイドーシス友の会
- CCHSファミリー会(先天性中枢性低換気症候群)
- (NPO)ジストニア友の会
- シルバー・ラッセル症候群ネットワーク
- 周期性acth症候群家族会準備会
- 小児交互性片麻庫親の会(AHC)
- 小児脳腫瘍の会
- 人工呼吸器をつけた子の親の会(バクバクの会)
- 腎性尿崩症友の会
- スモンの会全国連絡協議会
- (NPO)線維筋痛症友の会
- 全国筋無力症友の会
- 全国膠原病友の会
- 全国交通労働災害対策協議会
- 全国CDPサポートグループ(慢性炎症性脱髄性多発神経炎)
- 全国色素性乾皮症(XP)連絡会
- (社)全国腎臓病協議会
- 一般社団法人全国心臓病の子どもを守る会
- (NPO)全国脊髄小脳変性症・多系統萎縮症友の会
- 全国脊柱靭帯骨化症患者家族連絡協議会
- 全国多発性硬化症友の会
- 全国低肺機能者団体協議会
- 全国尿素サイクル異常症患者と家族の会
- 一般社団法人全国パーキンソン病友の会
- 全国ファブリー病患者と家族の会
- 竹の子の会(プラダー・ウィリー症候群児・老親の会)
- 胆道閉鎖症の子どもを守る会
- 中枢性尿崩症(CDI)の会
- つくしの会(全国軟骨無形成症患者一家族の会)
- TSつばさの会(結節性硬化症)
- 認定NPO法人難病のこども支援全国ネットワーク
- 認定NPO法人日本IDDMネットワーク(1型糖尿病)
- 日本ALS協会(筋萎縮性側索硬化症)
- (NPO)日本炎症性腸疾患協会
- 日本患者同盟
- 日本肝臓病患者団体協議会
- (社)日本筋ジストロフィー協会
- 日本CFSナイチンゲール友志会(慢性疲労症候群)
- 日本喘息患者会連絡会
- (財)日本ダウン症協会
- (社)日本てんかん協会
- 一般社団法人日本難病・疾病団体協議会
- 日本ハンチントン病ネットワーク
- (NPO)日本プラダー・ウィリー症候群協会
- (NPO)日本マルフアン協会
- 公益社団法人日本リウマチ友の会
- 脳外傷友の会コロポックル
- (NPO)脳腫瘍ネットワーク(JBTA)
- (NPO)はむるの会(ヒトT細胞白血病ウイルス=HTLV-1)
- 表皮水痘症友の会(DEBRA JAPAN)
- (NPO)PAHの会(肺高血圧症)
- (NPO)PIDつばさの会(原発性免疫不全症)
- PKDの会(多発性嚢胞腎・多発性嚢胞肝)
- フェニルケトン尿症(PKU)親の会連絡協議会
- 腹膜偽粘液腫患者支援の会
- ベーチェット病友の会
- ほっとMS(多発性硬化症、奈良)
- ミオパチー(筋疾患)の会オリーブ
- むくろじの会(多発性内分泌腫瘍症患者と家族の会)
- (NPO)無痛無汗症の会「トゥモロウ」
- もやもや病の患者と家族の会
- ゆまにて(神経難病者・障害者の社会参加と貢献を支援する会)
- ロイコジストロフィー患者の会
地域難病連(44団体)
- (財)北海道難病連
- (NPO)難病支援ネット北海道
- 青森県難病団体等連絡協議会
- 岩手県難病・疾病団体連絡協議会
- (NPO)宮城県患者一家族団体連絡協議会
- (NPO)秋田県難病連
- 山形県難病等団体連絡協議会
- 福島県難病団体連絡協議会
- 茨城県難病団体連絡協議会
- 栃木県難病団体連絡協議会
- 群馬県難病団体連絡協議会
- 千葉県難病団体連絡協議会
- (社)埼玉県障害難病団体協議会
- (NPO)東京難病団体連絡協議会
- 板橋難病団体達終会
- 江東区難病団体連絡会
- (NPO)神奈川県難病団体連絡協議会
- 新潟県患者一家族団体協議会
- (NPO)難病ネットワークとやま
- 山梨県難病・疾病団体連絡協議会
- 長野県難病患者連絡協議会
- (NPO)岐阜県難病団体連絡協議会
- (NPO)静岡県難病団体連絡協議会
- (NPO)愛知県難病団体連合会
- (NPO)三重難病連
- (NPO)滋賀県難病連絡協議会
- (NPO)京都難病連
- (NPO)大阪難病連
- 兵庫県難病団体連絡協議会
- (NPO)奈良難病連
- 和歌山県難病団体連絡協議会
- 岡山県難病団体連絡協議会
- 広島難病団体連絡協議会
- とくしま難病支援ネットワーク
- 香川県難病患者・家族団体連絡協議会
- 愛媛県難病等患者団体連絡協議会
- (NPO)高知県難病団体連絡協議会
- 福岡県難病団体連絡会
- (NPO)佐賀県難病支援ネットワーク
- (NPO)長崎県難病連絡協議会
- 熊本難病・疾病団体協議会
- (NPO)大分県難病・疾病団体協議会
- 宮崎県難病団体連絡協議会
- (認定NPO)アンビシャス(沖縄)
関連団体(9団体)
- 患者の声協議会
- 患者の生命保険を考える会
- 全日本国立医療労働組合(全医労)
- 一般社団法人ナンフェス
- 日本患者会情報センター
- 日本の医療を守る市民の会
- (NPO)日本慢性疾患セルフマネジメント協会
- (社福)はばたき福祉事業団(薬害エイズ被害者)
- (NPO)PRIP Tokyo(知的財産研究推進機構)
厚生労働省委託
平成24年度 難病患者サポート事業
調査・記録事業 「患者・家族のこえ事業 Ⅱ」
3.11 東日本大震災〜あれから1年半
「今、伝えたいこと」
発行 平成25年3月