患者本人による詩

それが私の勧め 小原美里

大きな揺れとともに地面から水が湧き出てきた
「液状化現象だ!」同僚が叫ぶ
道路のアスファルトが割れ、水道管が破裂した
「津波が来るぞ!」
「ここは東京湾内だから津波は大丈夫だ!」
いろいろな情報が大声で飛び交う
私は公務員だから市民の救援にあたる
避難してきた人を体育館に誘導し、ビスケットを配る
毛布は、私には重くて配れない
おばあちゃんが「体育館では眠れない。家に帰る」というので
肩を貸そうとしたら、支えた私かよろけて倒れてしまった
見た目には健康な人と変わらない稀少難病者の私
同僚は、自衛隊と一緒に給水や土嚢仕事に出かけたけれど、
「留守番も大事な仕事だよ」と私を電話番に指名した上司
液状化の砂が耳の穴まで入り込んで汗を流す同僚は「大丈夫?」と気遣ってくれる
私には何かできるのだろう
ふと空を見たら、桜がほころび始めていた
道路が割れて、木の根も曲げられて痛かっただろうに、時期がきて咲いてくれる桜
どんなつらい時も哀しいときも、太陽は昇る
桜が桜の勤めを果たすように、私は私の勤めを果たそう
難病であっても、今ある人生に感謝しよう
痛みがあっても、笑顔で生きていこう
生きとし生けるすべての者の幸せを祈ろう
それが私の勤め

【ペンネーム】
小原美里(おはらみさと)
【年齢】
48歳
【病名】
エーラスダンロス症候群
【被災場所】
千葉県浦安市

ページ最上部へ